第14冊目 セラピスト

最相葉月 著/新潮社

今回紹介するのは、最相葉月さんの『セラピスト』です。

この本は、「心の病は、どのように治るのか」という問いを軸に、心理療法の現場や、そこで人と向き合うセラピストの姿を描いたノンフィクションです。著者は、河合隼雄さんの箱庭療法や、中井久夫さんの絵画療法などを取材・体験しながら、心の治療とは何なのか、セラピストと患者(クライエント)はどのような関係なのかを掘り下げていきます。5年間にわたる取材の中で、患者の変化だけではなく、取材を続ける著者自身の内面にも目が向けられていきます。

① この本を手に取った理由

この本を初めて読んだのは、もう10年くらい前になります。当時、僕が勤めていた整体院の院長から勧められて読んだ本でした。そのときに読んだ内容のインパクトが、その後もずっと残っていました。それから時間が経って、1年くらい前にもう一度読みたくなり、再読することにしました。そして、これからも手元に残しておきたいと思い、改めて購入したのが今回紹介する本です。

10年くらい前に読んだ本を、もう一度読み返す。同じ本でも、そのときの自分と今の自分では、感じることが違うはずです。実際、この本は整体の仕事を続けてきた今の自分にとっても、改めて考えさせられるところが多い本でした。

② 印象に残ったこと

特に印象に残ったのは、箱庭療法や絵画療法など、いわゆる心理療法の現場で交わされる細かな会話の記録です。患者さんが箱庭をつくったり、絵を描いたりする。そして、それを一度で終わらせるのではなく、長い年月をかけて繰り返していく。その中で、少しずつ患者さん自身が変化していきます。

その変化が、劇的に「ある日突然、治りました」という形で描かれているわけではありません。ほんの小さな反応だったり、それまでとは少し違う言葉だったり、何気ない変化だったりする。そういうものが積み重なって、少しずつ回復に向かっていく。その過程がとてもリアリティがあって、僕には良かったです。

特に、回復に向かう起点になるような患者さんの反応と、それをセラピストがどう受け止めているのか。そのやり取りが細かく描かれていることで、「人が変わっていく」ということを、とても具体的に感じることができました。

③ 僕はこう感じた

この本に出てきた心理療法は、箱庭や絵を患者さん自身がつくることによって、その行為を繰り返すことによって、少しずつ患者さん自身が変化していきます。つまり、患者さん自身が治療の主体になっている。セラピストは、その変化を一方的に起こす人というより、その過程に寄り添い、伴走しているように僕には感じられました。

これを読んだ当時は、僕自身も整体の現場で、「自分がリードして、患者さんが良くなる方向に導かなければいけない」と考えていました。それしか方法はないのだと思い込んでいたんだと思います。施術者自身がリーダーシップを持って、患者さんを引っ張っていく。それが治療のスタイルであり、そうでなければいけないと思っていました。

でも、この本を読んで、それだけではない、別の患者さんとの関わり方で、治癒に導いていけることを知りました。患者さん自身が変化していくことを待ち、その変化に伴走する。そういう方法でも、患者さんの力になれる。
その方法論のほうが自分には合っていると思えたことは、僕にとってとても大きかったです。整体の施術に対して、新たな視点を得ることができた、とても貴重な経験でした。

④ 整体や日常とのつながり

整体の仕事をしていると、「何をすれば症状が変わるのか」ということに、どうしても意識が向きます。筋肉を緩める。関節を動かす。姿勢を変える。動作を変える。もちろん、そういったことは大切です。
でも、人の身体は、こちらが何かをしたからといって、必ずこちらの思った通りに変わるわけではありません。同じような施術をしても、変化の仕方は人によって違います。
その人自身が、自分の身体をどう感じているのか。どう動いているのか。日常の中で何をしているのか。そして、自分の身体や生活について、どんなことに気づいていくのか。そういう「本人側の変化」も、とても大きいのだと思います。

『セラピスト』を読んで強く印象に残ったのも、まさにそこでした。セラピストが何かをして「変える」のではなく、その人自身の中で起こっている変化に気づき、それを邪魔せず、必要なときに支える。
これは心理療法と整体では、もちろん方法も対象も違います。それでも、「人が自分自身の力で変化していく」というところには、僕の仕事にも通じるものがあると感じています。

そしてこれは、整体に限った話でもないのかもしれません。人が何かを変えていくとき、外から無理に変えられることよりも、自分自身の中から「変わってみよう」と思えることのほうが、何より大事です。

この本は、そんな「人が変わっていく」ということについて、改めて考えるきっかけをくれた一冊でした。

⑤ こんな人におすすめ

・人の身体や心が「変わる」ということに興味がある人
・セラピストやカウンセラーなど、人と向き合う仕事をしている人
・整体や治療の「治す」ということについて考えている人
・心理療法や箱庭療法、絵画療法に興味がある人
・患者さん自身の力を引き出すことについて考えてみたい人
・一方的に「治してあげる」のではない、人との関わり方を考えたい人

僕自身、10年くらい前に初めてこの本を読んだときと、整体の仕事を続けてきた今とでは、この本から受け取るものが少し変わりました。
それでも、最初に読んだときのインパクトがずっと残っていて、もう一度読みたくなった。そして、今も手元に置いておきたいと思った。
僕にとって『セラピスト』は、そんな一冊です。